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初恋の来た道(原題:我的父親母親 英題:The Road Home
   監 督 :チャン・イーモウ
   出 演 :チャン・ツィイー、他。
   ジャンル:ドラマ
   1999年  中国



 映画好きの友人に、女優さん(=チャン・ツィイー)のプロモーションビデオみたい、と紹介されました!
 ほんとにチャン・ツィイーの顔のアップがやたらと多いです!
 おじさんが借りるには、ちょっと照れる邦題「初恋の来た道」なのが欠点でしょうか…。
 でも原題よりもいいと思いますよ!

注)以下、ネタバレだらけです!

【あらすじ】
 なんとモノクロで始まります。
 雪のちらつく寒い冬に、都会で働くある青年は父が亡くなった知らせを受けて、とりあえず一人残された田舎の母親の元に向かいます。
 母親のいる小さな村の先生をしていた父は、学校を立て直す資金を募る活動のため村を出ていた時、出先で急死したのです。
 青年は、父の遺体を車で村に運んでお葬式を済ませようとするのですが母親はうんと言いません。
 昔ながらの方法で、人が担いで連れて帰らなくてはいけない、と譲りません。
 しかし村長は「村には棺を担げるような若者がいないので無理だ」と困っています。
 その夜、棺にかける布を夜なべで織り始めた母の隣室で、青年は部屋に飾ってあった父と母が並んで写っている写真を手に取り、二人が若かった頃の話を思い出します。
 母の心を察した息子は、村長に近所の村から棺を担ぐ人手を雇ってくれるように頼み、そのための資金をそっと渡すのでした。

 そして画面はお母さんが若かった頃の物語へ変わります。
 現在のシーンはモノクロなのに、思い出のシーンはカラーになります。


【感想】 
 とにかく思い出の中のお母さんは可愛い!(現在はシワクチャですが…)
 画面には若い時のお母さん(=チャン・ツィイー)の笑顔が、アップで、ロングで、画面いっぱいに映りまくります。



画面いっぱいに、何度も何度もドアップで … 。
こんな表情を「無垢な笑顔」というのでしょうか。

その背景となる田舎の風景もまた美しいのです!


 村一番の美少女だったお母さんは、村の学校に派遣されてきた若い男の先生に一目惚れしてしまい、控えめにしかし命がけで情熱を燃やします。
 それは村人が集まって「いったいどうしたもんだろう!」と考え込むくらいの一途さだったのです。
 皆はこのままではあの娘は死んじゃうんじゃないかと心配するくらいでした。
 村の衆は戸惑いながらも決して邪魔することなく、彼女の想いに微力ながら協力してくれるのが優しいです!

 先生は思想的に問題があると一時町に連れ戻され拘束されますが、すべての困難を克服して二人は結婚し、そのあと決して離れることなく村で暮してきたのです。



 そして画面はモノクロの現在に戻り、横殴りの雪の中をいよいよお父さんの棺を運び始めると、人手を心配したのは全くの杞憂だったことが分かります。
 かつての教え子でしょうか、話を聞きつけた多くの人々が先生の棺を担ぐために集まってきたのです。
 賃金を払うから、と集めてきた人手も金を受け取りません。
 故郷の村に向かう行列は、遠くから駆けつける人もいて益々長くなり、そのなかには制服姿の軍人まで混じっていました。
 雪の降る中を、おかあさんを先頭に、代わる代わる棺を担ぎながら人々は黙々と進んでいきます。

 お父さんは、若い時の思い出のシーンの中にしか登場しないしそれ程イケメンでもなかったけれど、この行列の長さが、どんな人柄だったのかを雄弁に語っています。
 一目惚れとは言うものの、お母さんの人を見る目は確かだったのですね。




お母さんは極寒の中、連れ去られたお父さんが戻ってくるのをひたすらに待ち続けました。


 また、町と村を繋ぐただの道だと思っていたものが、一人の人間の人生にとって大切な一本の道であったことも分かります。
 その道は、町から派遣された先生が馬車に乗って初めて村にやって来た道であり、お母さんが何食わぬ顔で先生を待ち伏せして言葉を交わした道、思想的に問題があると町に連れ去られる先生を泣きながら必死に追いかけた道、そして先生の帰りを雪の中でただひたすらに待ち続け高熱を出して倒れてしまった道でもあったのです。
 お父さんの魂が迷わないように、昔ながらの方法であの道を通って家まで連れて帰りたいというお母さんの想いは当然のことだったのでしょう!
 お母さんの人生には、この一本の道が寄り添っているようでした。

 お父さんは学校を見下ろす丘の上に葬られ、お母さんは一緒に暮らそうという息子の誘いを断り、いつか自分も隣に葬られる事を望みます。
 一生を過ごした村、顔見知りばかりの村で美しい自然に包まれて、優しい人々とお父さんのお墓に見守られながら残りの人生を送ることが、今度もお母さんにとっては最良の選択だったのでしょう。
 
 チャン・ツィイーの顔のアップや背景の自然があんまりきれいなので目を眩まされますが、決してそれだけの映画ではありませんでしたね …。



 それにしても、若い時にこの映画に抜擢されたチャン・ツィイーはなんとラッキーだったのでしょう!
 もちろんラッキーなだけではなく、実力・努力も備えた人であるのは、その後の活躍からも明らかですが。



  2018.09.    ................ 傑作映画館の目次ページへ